米谷 優

 爺は「これだけは、、、」という目をしていた。
 毎年、十二月も末になると爺は自室にこもり、神社のしめ縄をワラで纏うのだ。いつも無口な爺がなお一層無口になるときだ。力をこめる爺の手は異常とも思えるほど大きく、太い血管が浮き出ている。たくさんの皺が走ったその大きな手で爺はゆっくりと縄を仕上げていく。

 最近めっきりと存在感が薄れた爺はもう昔の爺ではないように思われた。昔は、あの灰色の眼でにらまれ、あの大きな手が握り締められ、眉間に皺がよった時、皆、はっとして固くなったものだが、今はもうその頑固な爺の姿をまるで見ることができない。丸くなったのでもない角がとれたのでもないはずだが、、、

 爺と小さな神社へ完成したしめ縄を持っていく。爺はほうきで丁寧にお宮の床を掃き、祭壇を掃除する。自分は、爺に代わって鳥居に登り、しめ縄を取り替え、石油ストーブの調子を確かめる。爺は終始無口だ。自分も自然と無口になる。言葉を発してはいけないような厳かな雰囲気が充満していく。そのうち、「よしっ」という一言が、白い息と共に爺の口から漏れる。祭壇に向かって柏手を打つ。その横で自分も柏手を打つ。爺をそっと横目で見ると、「これだけは、、」という自信があふれていた。それを見て、自分は久しぶりに昔の爺の姿を見た気がした、、、。

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